昔から街道筋や神社、寺院などに好んで植えられたクロマツは、私たちにとって馴染み深い木で、各地に名松が残されています。
安佐南区長束の蓮光寺にあるクロマツもそのひとつです。この木はそのあまりの美しさに、近江(おうみ)八景(滋賀県)のひとつ、唐崎(からさき)の名松さえ足を洗って(または跣(はだし)で)逃げ出すほどだと言うので、「洗(跣(せん))足唐崎松」と呼ばれたと言います。どっしりとした主幹から四方に向かって水平に伸びる枝が、境内全体をほとんど覆いつくす姿は実に見事なものでした。地を這うようなその形から、「臥竜(がりゅう)松」「蓮華の松」とも呼ばれていたそうです。
蓮光寺の前身は、鎌倉時代に下安(しもやす)に建立された松陰坊だと伝えられています。現在の地に移ったのは、一説に寛永7年(1630年)のこととされ、クロマツはその記念として植えられたものだと言われています。以来この地で350年の年月を重ね、長束に伝わる「麦たたき歌」の中にも、
松を見なはれ蓮光寺の松を
天をおそれてもとをはう
もとをほうても蓮光寺の松は
極楽浄土の蓮華松
と歌われて、地元の人々に親しまれ続けてきました。
しかし、最近ではマツクイムシの影響から枝葉が衰え、樹勢の維持を図る措置により、樹形が変化しています。
所在地:広島市安佐南区長束二丁目1-44 蓮光寺境内
指定年月日:昭和29年(1954年)4月23日
概要:クロマツ 樹高9m 目通り幹囲3.2m 枝張・東西26m 南北25m